不動産所得にかかる留意点について~事業的規模か業務的規模かの判断~

不動産所得をするにあたっての確認

気づいたら、2019年が始まって、2か月以上がたち
確定申告期限まで残り2週間となりました。
既に申告がお済みの方は、一安心、まだの方は

残り時間もわずかですので、頑張ってください!

さて、今日は、土地や建物をお貸しして、家賃収入を得る
「不動産所得」の申告をする際に必ず登場する
「事業的規模」と「業務的規模」の違いについて簡単にご紹介いたします。
(以下の記事には、筆者の個人的な考え方も含まれているため、あくまで目安としていただき、
詳細は顧問の税理士や税務署等に確認いただければと思います。法令等も本日現在のものをベースとしています。)

事業的規模と業務的規模の概要

まずは、「事業的規模」と「業務的規模」の概要について説明いたします。
事業的規模とは、一定規模以上の不動産を所有しているため、当該所得について
「事業所得」に類似した考え方で所得を考えようというものであり、

所得税法基本通達26-9で以下のように規定しています。

建物の貸付けが不動産所得を生ずべき事業として行われているかどうかは、社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定すべきであるが、次に掲げる事実のいずれか一に該当する場合又は賃貸料の収入の状況、貸付資産の管理の状況等からみてこれらの場合に準ずる事情があると認められる場合には、特に反証がない限り、事業として行われているものとする。

(1) 貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上であること。

(2) 独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上であること。

ここで、所得税法基本通達26-9について確認してみますと、「実質基準」と「形式基準」の

両者についてか書かれています。

形式基準については、所謂「5棟10室」と呼ばれている貸室は10部屋、家屋は5棟を貸していれば
一般的には事業的規模ですねということになるものであり、通達の(1)と(2)をそのまま参考に

すればよいかと思います。また、こちらに記載はないですが、駐車場だけ貸されているお客様の場合は、一般的に50台が形式基準としての目安といわれています。

これを簡単な式にすると

戸建て1棟=貸室2部屋=駐車場5台という等式になります。

ここまでを表にしますと以下の通りです。
区分
規模
建物
・貸間、アパート等については、貸与することができる独立した室数がおおむね10以上
・独立家屋の貸付けについては、おおむね5棟以上
土地
土地、駐車場の契約件数が、おおむね50件以上(貸家屋1棟の貸付に相当する土地の契約件数をおおむね5件として換算)
なお、貸家、貸室、駐車場について複合してお持ちのお客様については、目安として先の等式をもとに

考えてみるのがよいかと思います。

ここまでが形式基準でしたが、では、先に述べた数以下であれば必ず事業的規模にならないかというとそうでもありません。
赤字で書きました「社会通念上事業と称するに至る程度の規模で建物の貸付けを行っているかどうかにより判定」という

ところに立ち返って考えますと、「不動産所得」でしっかり生活できているかどうかで判断することになるかと考えます。

例えば、倉庫を2つだけ貸している場合は、2棟になるので、
形式的基準では満たさないように思えますが、1棟あたり、年間1,000万円、

2棟で2,000万円の家賃収入がある場合はどうでしょうか。

一般的考え方であれば、この収入があれば食べていけますね。
ということになり、事業的規模で判断することになるかと考えられます。
本来的には、実質基準が原則ですが、実務では先に5棟10室の形式基準から
先に確認しているため、ここではその順番で書かせていただきました。
このようにして判断し、「事業的規模」となったもの以外の不動産所得については、
「雑所得」に類似した「業務的規模」の所得として判断することになります。

適用できる税制

次に「事業的規模」と「業務的規模」での適用できる税制の違いについて確認していきたいと思います。
以下に主な違いについて簡単な表でまとめてみました。
事業的規模
業務的規模
資産損失の場合の処理について
損失の金額を損失の生じた年分の必要経費に算入(所法51①)
損失の金額を損失の生じた年分の不動産所得を限度として必要経費に算入(所51④)
貸倒損失の取り扱いについて
貸倒損失処理をした年分の必要経費(所51②)
その収入が生じた年分に遡って収入金額がなかったものとみなす。(所64①)
青色専従者給与
青色事業専従者に支払った給与のうち労務の対価として相当なものは、その年分の必要経費に算入する。
適用なし
事業専従者控除
専従者1人につき最高50万円(配偶者である専従者については86万円)を必要経費に算入する。
適用なし
青色申告特別控除
一定の要件を満たす場合には、最高65万円の控除
最高10万円の控除
小規模企業共済への加入について
加入可能
加入不可能

 

上記を見ますと、事業的規模は、
事業所得に類似することもあり、
税制上の優遇が業務的規模に比較して
多いことがうかがえます。

 

不動産所得をこれから行う方は、
今回の記事について少しでも参考にしていただければ幸いです。